「子どもと一緒に山を歩いてみたいけれど、ちゃんと歩けるだろうか」 小さなお子さんと山に行こうと思ったとき、そんな心配をされる方も多いのではないでしょうか。
今回、8月18日から20日までの3日間、小学1年生の男の子とお母さんを八ヶ岳でご案内しました。八子ヶ峰の夕日から始まり、北横岳、そして白駒池と高見石。3日間を一緒に歩いて、僕自身もとても楽しい時間を過ごしました。
そして何より印象に残ったのは、山頂に向かって頑張って歩くというよりも、道中で見つけたものを楽しみながら歩いていたことでした。植物を見つければ立ち止まり、動物の気配を感じれば耳を澄ませ、気になるものがあれば質問する。そんなふうに過ごしているうちに、いつの間にか山頂に着いている。僕が好きな「ゆっくり歩く山歩き」の姿が、そこにはありました。

1日目:八子ヶ峰。山頂から北アルプスに沈む夕日
初日は八子ヶ峰のサンセットツアー。夕方から登り始め、山頂で夕日を待ちました。この日の夕日は、北アルプス方面へゆっくりと沈んでいきました。山の中で見る夕日は、街で見る夕日とは少し違います。周りの山々が少しずつ暗くなり、最後に残った光が山の向こうへ消えていく。
そして帰り道は、ヘッドライトをつけての下山です。

昼間とは違う暗い山道を歩く、少しドキドキする時間。その途中、暗闇の中で鹿の目がキラッと光る姿も見ることができました。
「山ではこんなこともあるんだ」。そんな体験が、子どもにとってはきっと強く記憶に残るのだと思います。
天気予報を見ながら、予定を入れ替えた2日目・3日目
もともとは、19日に白駒池・高見石、20日に北横岳という予定でした。ところが、20日の午後は雨予報。北横岳は山頂からの展望も楽しみたい山です。このまま20日に行けば、展望がないだけでなく、雨を気にしながら歩くことになる可能性もあります。
そこで、お客様と相談して予定を入れ替えることにしました。19日に北横岳へ。すると、この日は展望にも恵まれ、気持ちよく山頂まで歩くことができました。そして20日は、雨の影響を受けにくい白駒池と高見石へ。
「最初に決めた予定だから、その通りに歩く」のではなく、その日の天気、その日の体調、その日のコンディションを見ながら、一番楽しめる山歩きを考える。こうした変更ができるのは、個人ツアーならではの良さの一つだと思っています。
小学1年生とは思えないほど、自然への興味が深い

初めてお会いしたときから、しっかり挨拶ができる子でした。そして、興味を持ったことには質問をする。ただ「教えて」と聞くだけではありません。話を聞くと、自分なりに考えて、「じゃあ、こういうこと?」と答えを出してくる。その姿がとても印象的でした。
聞いてみると、普段からお母さんに絵本を読んでもらっているそうです。古生代の生き物が好きで、野草も好き。家では植物をタネから育ててしまうほどだそうです。山の中でも、気になる植物を見つけると立ち止まります。「これは何だろう?」「どうしてこうなっているんだろう?」。そんな疑問を持ちながら歩いているので、道中が退屈になることがありません。
コースタイム1.4倍でも、「まだ?」が一度も出なかった
今回、3日間を一緒に歩いていて、僕が一番驚いたことがあります。それは、「まだ?」とか「あと何分?」という言葉が一度も出なかったこと。
小学校低学年のお子さんと登山をすると、「まだ山頂じゃないの?」「あと何分?」「疲れた」といった言葉が出ることも珍しくありません。でも、今回は全くありませんでした。
歩くペースは、決して速くありません。コースタイムの約1.4倍ほど。それでも、歩くこと自体を楽しんでいるので、時間を気にする必要がないのです。道の脇に植物があれば観察する。動物の気配があれば探してみる。岩があれば登ってみる。そしてまた歩く。そうしているうちに、気がつけば山頂に着いている。これが、僕にとって理想的な山歩きの一つです。
高見石の岩場では、お母さんも一緒に
3日目の白駒池と高見石。高見石では、大きな岩を登る場面があります。最初はお母さんの方が少し怖そうにしていました。一方、息子さんは楽しそうに岩場を登っていきます。その姿を見ながら、お母さんも少しずつ岩場に慣れていきました。

最初は怖かったものが、やってみるうちに少しずつ楽しくなっていく。最後には、お母さんも楽しそうに岩場を歩いていました。親子で同じものを見て、同じ場所を歩いて、一緒に少しずつできることが増えていく。山は、そんな時間を過ごせる場所でもあります。
子どもの「やってみたい」を見守るということ
山を歩いていると、道の脇にある岩に登りたくなることもあります。今回も、息子さんがルート脇の岩に登ろうとする場面がありました。もちろん、安全を確認することは大切です。でも、危険がない範囲であれば、何でも先回りして、「危ないよ」「やめておこう」と言ってしまう必要はないのかもしれません。
お母さんも、息子さんが岩に登っている姿を温かく見守り、ときには写真を撮っていました。僕もその姿を見て、「こういう時間っていいな」と思いながら、一緒に写真を撮りました。子どもが何かに興味を持ったときに、すぐ先へ進ませるのではなく、少し立ち止まって見てみる。その時間があるからこそ、山が楽しくなるのだと思います。
3回目の屋久島。そして、八ヶ岳で見つけたヒカリゴケとギンリョウソウ
この親子は、なんとすでに屋久島へ3回も行っているそうです。自然が好きなことは、歩いているとすぐに伝わってきました。
今回、特に見たいと思っていたものがありました。それが、ヒカリゴケとギンリョウソウです。ヒカリゴケを見つけたときは、二人ともかなり喜んでくれました。そして、その後もずっとヒカリゴケを探していました。一度見つけて終わりではなく、「ほかにもないかな?」と探してみる。この姿が、僕にはとても印象的でした。

ギンリョウソウも、ちょうど良いタイミングで見ることができました。花の時期のもの。そして、実ができ始めているもの。同じ植物でも、時期によって姿が変わります。写真を撮りながら、それぞれをじっくり観察しました。

山では、いわゆる「松ぼっくり」に似たものもたくさん落ちています。このときはシラビソのぼっくりを見つけました。「松ぼっくりとは、ちょっと違うんだよ」。そんな話をしながら観察しました。
こういう小さな発見が、山の中にはたくさんあります。山頂や絶景だけが山の楽しみではありません。足元にある小さな植物。木の実。苔。鳥の声。動物の気配。岩の形。一つ一つに目を向けてみると、歩く距離は同じでも、山の見え方はずいぶん変わります。
最後にいただいた、3日間を描いた絵手紙
3日間の最後。お別れをしてから、お母さんが教えてくれました。「車の中で、少し涙を流していました」。僕と一緒にいる間は、そんな様子を全く見せていませんでした。だからこそ、その話を聞いたとき、「ああ、本当に楽しんでくれていたんだな」と、後からとても嬉しくなりました。
そして最後には、絵手紙までいただきました。そこには、ヒカリゴケ、シラビソのぼっくり、そして好きな古生代の生き物——3日間で出会ったものが、自分なりに思い出されて描かれていました。
ガイドをしていて、こういう形で時間が残ることは、とても嬉しいことです。
ゆっくり歩くからこそ、見つけられるもの
僕は、山を歩くときに「できるだけ早く山頂へ」というガイドをしたいわけではありません。もちろん安全のために時間を考える必要はあります。でも、時間に余裕があるなら、途中で気になったものを見てみる。子どもが何かを見つけたら、一緒に立ち止まる。大人が「これ何だろう?」と思ったら、一緒に考えてみる。
そうやって歩いていると、予定していた場所に到着することだけが目的ではなくなります。歩いている時間そのものが、山の楽しみになります。今回の親子の歩くペースは、コースタイムの約1.4倍でした。でも、僕にはその時間が全く長く感じませんでした。むしろ、ヒカリゴケを探したり、ギンリョウソウを観察したり、岩に登ったり、鹿の目を見つけたり。そんな時間があったからこそ、3日間がとても豊かなものになったのだと思います。
実は最近、団体ツアーでガイドをする機会が増えていました。もちろん団体には団体の楽しさがありますが、参加者一人ひとりの「今、何に興味を持っているんだろう」を考えながら歩く時間は、どうしても少なくなります。今年はホームページを作り直し、個人のお客様や少人数でのガイドに、もう一度力を入れていこうと思っていました。今回の3日間は、その意味でもとても大きな時間になりました。
子どもと一緒に、八ヶ岳を歩いてみませんか

「うちの子はまだ小さいから、登山は難しいかな」。そう思っている方もいるかもしれません。でも、子どもにとっての山歩きは、大人と同じように歩く必要はありません。興味を持ったら立ち止まる。植物を見つけたら観察する。岩があれば登ってみる。疲れたら少し休む。そして、また歩く。そんなふうに、その子のペースで歩いてみると、山は思っている以上に面白い場所になるかもしれません。
もちろん、すべてのお子さんが同じように歩けるわけではありません。年齢や体力、普段の遊び方、その日の体調などによっても変わります。だからこそ、僕は一組一組のお客様の様子を見ながら、その日の歩き方を考えていきたいと思っています。
今回の親子のように、自然を見ることが好きなご家族や、子どもの「なんで?」を大切にしながら山を歩きたい方には、八ヶ岳はとても面白い場所です。山頂だけを目指さず、道中にある小さな発見を楽しむ。少し時間をかけて、ゆっくり歩く。そんな八ヶ岳の楽しみ方もあります。
素敵な3日間を一緒に過ごさせてもらった親子に、改めて「ありがとう」を伝えたいと思います。そして、これからも子どもたちが山の中で見つけた小さな「なんで?」を、一緒に楽しめるガイドでありたいと思います。



