山や森でニホンザルに出会ったとき、
「猿と目を合わせてはいけない」
と聞いたことはありませんか?
動物園ならともかく、山の中で突然、野生の猿と出会うと、どうしていいのか少し戸惑います。
八ヶ岳で山岳ガイドをしている僕は、登山道でニホンザルに出会うことはほとんどありません。
ただ、八ヶ岳周辺でも猿がいないわけではありません。
富士見町や北杜市、立科町など、山の麓や里の周辺では猿を見かけることがあります。
一方、僕がよく案内している上高地や、以前暮らしていた屋久島では、猿に出会う機会がずっと多くありました。
そこで今回は、最近読んでいる『野生動物学入門』をきっかけに、「なぜニホンザルとは目を合わせないほうがいいのか?」について、少し掘り下げてみます。
ニホンザルと目を合わせてはいけない?
『野生動物学入門』には、ニホンザルについて、
目を合わせるのはよくない
という趣旨の説明があります。
もちろん、「目が合ったら必ず襲ってくる」という話ではありません。
僕自身、屋久島や上高地で猿に何度も出会っていますが、目が合ったことで怖い思いをしたことはほとんどありません。
猿とこちらが互いに見ることも普通にあります。
では、なぜ「目を合わせないほうがいい」と言われるのでしょうか。
ポイントになるのが、動物にとっての「視線」です。
人間にとって「目を合わせる」はコミュニケーション
人間同士では、目を合わせることはごく普通のコミュニケーションです。
「こんにちは」
「話を聞いています」
「あなたに興味があります」
そんな気持ちを、言葉だけでなく視線でも伝えています。
反対に、話しかけても相手がまったくこちらを見なかったら、
「聞いてくれているのかな?」
と少し不安になることもあります。
つまり人間にとって、視線は重要なコミュニケーション手段です。
ところが、同じ霊長類でも、視線の意味は同じではありません。
ボノボ、チンパンジー、ゴリラではどうなのか?
面白いのは、ニホンザルとは逆に、目を合わせることが友好的な意味を持つ霊長類もいることです。
例えばボノボでは、アイコンタクトが友好的な関係を築くことにつながります。
チンパンジーやゴリラでも、目線が挨拶や、相手に何かを要求するときの「催促」のように使われることがあるそうです。
つまり、
「猿の仲間だから目を合わせるのは危険」
という単純な話ではありません。
種類によって、視線の意味が違うのです。
ここが野生動物を観察するときの面白いところです。
なぜ人間は「どこを見ているか」が分かりやすいのか?
ここで、もう一つ面白い話があります。
人間の目をよく見ると、白目と黒目の境目がかなりはっきりしています。
そのため、相手がどちらを向いているのか、どこを見ているのかが分かりやすい。
例えば、顔は正面を向いていても、目だけ横を向けば、
「あ、この人はあっちを見ている」
と分かります。
人間は、相手の視線を読み取る能力をかなり発達させているわけです。
「顔の向き」ではなく、「目線」が重要なのです。
こう考えると、人間にとって目がどれほど重要なコミュニケーションの道具なのかが分かります。
野生のニホンザルを見るときは「横目でチラリ」
では、山でニホンザルに出会ったらどうすればいいのでしょうか。
僕なら、正面からじっと見つめ続けることはしません。
観察したい気持ちはもちろんあります。
でも、こちらから強い視線を送り続ける必要はありません。
少し顔をそらしながら、横目でちらっと見る。
そして、距離を詰めずに、その場の状況を見守る。
これくらいが無難だと思います。
特に、子ザルを連れた群れや、人間の食べ物に興味を示している猿などの場合は、こちらから積極的に近づかないことが大切です。
「写真を撮りたい」
「もっと近くで見たい」
という人間側の気持ちより、猿がどう感じているのかを優先する。
これが野生動物を観察するときの基本だと思います。
山で動物を見るときは「人間の常識」を少し横に置いてみる
登山をしていると、景色や植物だけではなく、野鳥や昆虫、哺乳類など、さまざまな生き物に出会います。
そのときに面白いのが、
「自分だったらどう感じるか」ではなく、「この動物にとって、この行動はどういう意味なのか?」
と考えてみることです。
人間にとっては親しみの表現でも、野生動物にとっては警戒や威嚇になることがあります。
逆に、人間から見ると何気ない動きが、動物にとっては重要なサインなのかもしれません。
こうしたことを少し知っているだけで、山歩きの見え方が変わってきます。
ただ山頂を目指して歩くのではなく、
「今、鳥が鳴いたのは何だろう?」
「この植物はなぜここに生えているんだろう?」
「この猿は、今こちらをどう見ているんだろう?」
と考えながら歩く。
山は、知れば知るほど面白くなります。
ガイドと歩くと、見えてくるものが変わります
僕が山岳ガイドとして大切にしているのも、単に山頂まで安全にご案内することだけではありません。
八ヶ岳には、苔や高山植物、野鳥、地形、森の成り立ちなど、歩きながら楽しめるものがたくさんあります。
知らなければ通り過ぎてしまうものでも、少し知識があるだけで、
「ただの森」が「いろいろな生き物が暮らしている場所」に変わります。
そして、自然観察では「見つける」ことだけでなく、どう観察するかも大切です。
動物を驚かせない。
植物を傷つけない。
その場所の自然を、そのまま楽しむ。
そんなことも含めて、山を歩いてみると面白いと思います。
八ヶ岳を歩いてみたい方、植物や苔、野鳥などを観察しながらゆっくり山を歩いてみたい方は、ぜひ一緒に歩きましょう。
「山頂に登る」だけではない八ヶ岳の楽しみ方をご案内しています。
詳しいガイド内容や日程については、下記からご覧ください。

